事故謝罪マニュアル翻訳

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20061201ik0a.htm

医療訴訟の件数が増加傾向にある中、米国の「ミスを認め、謝罪する」という運動を日本でも広げようとする動きがでてきた。東大医療政策人材養成講座で学ぶ医師らが、医療事故が起きた時に、患者・家族にどう対応したらよいかをまとめた米国の「医療事故 真実説明・謝罪マニュアル」を翻訳し、ホームページで公開した。
マニュアルは、米ハーバード大の関連教育病院16施設で利用されているもので、今年3月に発刊された。
医療ミスが起きた時に、事実を説明し、謝罪することは患者側から見れば当然のことだが、医療現場では訴訟を避けるため「余計なことは絶対に話すな」というのが、半ば“常識”だ。
マニュアルは「隠さない、逃げない、ごまかさない」を原則とし、「ミスを認め、謝罪することで、逆に相互不信の象徴である法廷闘争が避けられる」と強調する。実際、米国のミシガン大病院などで、謝罪運動が実践され、4年間で訴訟件数が56%減少した。
翻訳メンバーは、「日本の医療にも参考になる」としている。ホームページのアドレスは、(http://www.stop-medical-accident.net/

「マニュアル」は事故一般を扱っているのに、記事はミスの場合だけを強調しているのはわざとですか? 過誤があった場合に説明謝罪が必要なのは当然だと思うよ*1翻訳文は長いのでほとんど読んでないけど、こんなことも書いてありますよ、と。

傷害が医療過誤によるものであるかどうか明確でないならば、医療事故はやはり事実として受け止められるべきで、前記のごとく遺憾の意を表明されなければなりません。しかしながら、すべての事実が判明する前に、早合点したり、自分自身やだれか特定の人を非難したり、医療事故の責任をとったりしないことが重要です。十分な調査を約束しなければなりませんし、それとともに、事実がより明らかになれば患者さんに報告することを約束しなければなりません。

原文タイトルは"When Things go Wrong: RESPONDING TO ADVERSE EVENTS"なんだけど、何をトチ狂って「事故は全部謝罪しろ」みたいな「医療事故=医療ミス」の恒等式を助長させるようなタイトルにしたんですかね。和訳タイトルの形式に沿うなら、内容的には「医療事故 事実説明・遺憾表明マニュアル」の方が近い*2。つーか、この「謝罪マニュアル」というネーミング自体も結構アレだよね。医者叩き医療問題を扱う番組で引き合いに出されて「やっぱりお医者さんはマニュアルが無いと謝罪することもできないんですね」「これまで謝ったことなんて無いんですよ」ってみのさんやゲストの芸能人に叱られるよ、きっと*3


プレスリリースでは事故と過誤の使い分けをしている。

・医療事故が起こったら、「こんなことが起こって残念です」。
医療過誤ならば(と分かったら)、「申し訳ありません。お詫びいたします」。

なんか必死にアメリカで成功したみたいに強調してるけど、「じゃあ、日本でも謝罪や事故報告書は法廷で証拠にされないの?」って言ったらそんな保証は無いわけで。というか、過誤ともミスとも書いていない報告書で逮捕されるわけで。

●日本の状況
・まだ、「医療事故が起こったときには、余計なことは絶対に話すな」と教えている医療現場がたくさん存在します。医療事故が明らかになるのは氷山の一角と考えられます。隠蔽が行われることも少なくないと思われます。米国のような「医療過誤訴訟危機」は起こっていませんが、医療事故は多数存在し、医療への国民の信頼が揺らいでいます。「真実説明・謝罪」の普及によって医療現場の“文化”が変わらなければ、真の再発防止などにもつながらないと考えられます。また、医療現場において「真実説明・謝罪」が実践できる環境作りの整備も求められるといえるでしょう。その際、米国では、「『医療事故を誤ったら訴訟で不利になる』ということが神話に過ぎなかった」と認識されていることを知るのは、大きなインパクトになる可能性があります。
●米国における「(医療事故に関する)真実説明・謝罪運動」の状況
〔背景〕
・米国では、「医療過誤訴訟危機」が発生。損害賠償金額が高騰。医師賠償責任保険も高騰。ペンシルバニア州イリノイ州などから、医師が脱出・流出するなどし、大きな社会問題になっている。
・損害賠償額に上限をつける州が出てきているが、根本解決ではない。
〔真実説明・謝罪について〕
・1987 年、ケンタッキー州レキシントン市のVA(退役軍人)病院で、真実説明方針の実践が始まる。
・有害事象の患者への告知の義務化を行う州が出てきた。ネバダ州、フロリダ州ペンシルバニア州(2004 年)、ニュージャージー州(2005 年)、バーモント州(2006 年)・・・。
・29 州が、謝罪を事故責任の証拠としないことを州法などに規定している。(マサチューセッツ州1986 年、テキサス1999 年、カリフォルニア州2000 年、その他の州は2004 年辺りに制定)
・米国では、多くの州で、有害事象(死亡例・重篤障害例)の報告が義務付けられているが、その報告書が法廷証拠には使用されないとの制限がある(ただし、訴訟を妨げるものではない)。
(中略)
・米国では、通常は刑事が介入しない、医療職が医療事故対応について教育されている、病院に医療事故対応専門チームがいる、示談金などについても経費と考えられている、医療事故の報告義務が厳しい――など、「真実説明・謝罪」が標準的な対応として実践できる環境が整いつつあると考えられる。

*1:日本の場合はアメリカと違って警察屋さんをご招待する危険があるが。

*2:実際は、医療事故に関わった医療従事者へのフォローなどについても記されているため、このタイトルでは不十分。

*3:はっきり覚えてないけど、医者叩き番組で「医者向け講習会テキストの呆れ返る幼稚な内容!」みたいなコーナーは以前あった気がする。